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コンピュテーションが生む創造的思考 第4回:補助線のアップデート「参加のための補助線」

浜田晶則/AHA 浜田晶則建築設計事務所・teamLab Architectsパートナー

ル・コルビュジェの「住宅は住むための機械である」という言葉に代表されるように、近代は機械がメタファーとなる時代であった。しかし現代はビデオゲームやインターネットなど物理的な質量、距離、時間を超えるようなものがメタファーになり得ると考えている。
ビデオゲームに限らず古典的なものも含めて、ゲームに最も重要な要素の一つが「ルール」である。ルールによって制約が生まれるが、それによって創造的な行為が生まれることも多い。また、ルールを逸脱する行為である「チート」もゲーム特有の行為である。ビデオゲームにも実装に伴うバグを用いたバグ技や、開発者が隠しコマンドとしてあらかじめ実装しておくものもある。

しかし前提条件としてのルールがゲームに必要になるのは、共通のゴールをもってユーザーが参加するという要件から生まれている。つまり、「インタラクション」という機能が求められ、「参加」という行為をつくるのである。

今回は参加を目的とした補助線について、統語論と意味論から考えたい。統語論(syntax)は、文字や語句などを用いた配列や構造を扱う分野である。建築の構成は室の配列を扱い、部材を用いて組み立てるうえで構造的であり、統語論と建築はそもそも密接な関係をもつものであるといえる。ロンドン大学バートレット校のBill Hillierによってスペースシンタックス理論が生まれた。『The Social Logic of Space』(1984)では、場や空間を数学的に記述し、その関係を論理的に示す方法が体系的に執筆された。言語で空間を記述することができればプログラム言語によって空間を記述することができる。ビデオゲームの開発であっても、建築をプログラム言語によって設計する際にも、言語化のプロセスがまず重要なのである。金沢21世紀美術館で開催された「lab.4 Space Syntax」は、機械学習を用いた映像解析で室内の行動調査をし、スペースシンタックス理論を用いて建築の利用方法を視覚化した好事例である。

統語論的な空間を通じて何が表象されるか。設計や制作するプロセスにおいては、それを意味論(semantics)的に解釈する必要がある。ある空間を描画する方法はいくつかあり、平面図や立面図のように正投影する方法、アクソノメトリックのように平行投影する方法、1点透視図法のように遠近法を用いて投影する方法などが挙げられる。さらにそこに陰影が表現されることによって空間に対するオブジェクトの関係が位置づけられ、その位置や意味は容易に変化する。従って、システムがユーザーに対してインタラクティブに参加を要請する場合、表象としてのオブジェクトの意味に対する共通認識が重要になる。その意味論的な解釈や共有の方法について、筆者が関わったアプリを例に考えていきたい。

「東松山農産物直売所」 撮影:新建築社写真部/『新建築』2015年12月号

2016年、B2Aの馬場兼伸氏からアプリをつくりたいという相談があった。B2Aが設計した「東松山農産物直売所」(以後、東松山)が竣工した後のことだった。東松山で試みた設計ルールをアプリ化して、エンドユーザーが自分の小屋を設計できるようにしたいという依頼だった。筆者も東松山を訪れたときに感じたシステムとしての言語化可能性や、その設計思想に共感していたこともあり、アプリ開発のプロジェクトを共に進めることになった。

馬場氏のテキストから、そのルールがどのようにつくられていったかを把握することができるが、最初にルールがあったのではなく、ルールを育てていくプロセスだったというのが非常に興味深い点である。

やりとりは大きく2段階あり、各部門のゾーニング、軒の深さ、無柱空間のサイズなどから大きな構成を定める段階(主に基本設計)と売場什器のレイアウトや搬出入経路、テナントの募集条件などから設えを調整する段階(主に実施設計以降)に分かれる。具体的には、前者で壁のラインや屋根の外形が、後者で棚やサッシの配置が、関係者の意見を投影しながら検討された。

この過程で、例えば搬出入口で頬杖が車両の邪魔になることからイレギュラーな重ね梁を編み出したり、筋交いの斜材の向きが構造的に選択可能な事からそのパターンにサインの役割を持たせるべくアレンジしたりというように、ルールの運用は適宜読み替えたり拡大解釈されている。それはルールに則りながら、ルールそのものを育てるプロセスでもあった。(B2Aウェブサイトより)

そこで、「WebGL」というウェブブラウザ上で3DCGを描画できる標準仕様を用いて、AHAとプログラマーの中村将達氏で「NSKR」という設計シミュレーションアプリを開発した。 まずは言語化されていた柱スパン、梁の種類、方杖、屋根形状などのルールをコードに落としていった。建てる範囲をまず決めるが、床を決めると同時に柱が立つように開発側が恣意的に設計プロセスを決定している。すべてのグリッドに柱が立ち、柱をクリックすると取り除くことができるが、構造的に取ることができる柱だけ選択可能にすることで誰でも構造的に破綻しない小屋を設計できる。さらに壁量計算で壁量と偏心率の計算をリアルタイムで確認できるように計算を組み込み、確認申請を行う際にも構造面で問題がない軸組が設計できる。構造のチェック表示はオンオフにできるため、ゲームのように答え合わせをすることもできる。単なる設計用CADとは異なり、ゲーム的な遊びの要素を入れるゲーミフィケーションによって、ユーザーが積極的に設計したくなるようなインターフェースとした。B2Aが設計した「山武の資材小屋」もこのアプリで設計した小屋の一例である。

「山武の資材小屋」©️Takeshi Yamagishi

「NSKR」ではプリセットされたさまざまな家具を自由に配置する機能があることによって、スケールや意味が付与される。それは日本の民家の座敷が冠婚葬祭にも日常的な集まりにも使われてきたように、積極的に間の意味を読み替えていく行為である。このプログラムによってユーザーは設計に参画し、自由に多くのパターンをシミュレーションできる。また、木造軸組みという、増築や減築がしやすく面材も自由に更新できる構法によって、時間軸を伴った変更可能性が高いことも重要な特徴である。建築においてゲーミフィケーションがもたらすものとは、シミュレーションとしての設計時における参加と、利用後にユーザーが積極的に関与できる、参加のための補助線なのである。

浜田晶則/AHA 浜田晶則建築設計事務所・teamLab Architectsパートナー
1984年富山県生まれ。2012年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。2014年AHA 浜田晶則建築設計事務所設立。同年よりteamLab Architectsパートナー。日本女子大学非常勤講師、明治大学兼任講師。コンピュテーショナルデザインを用いた設計手法で建築とデジタルアートの設計を行い、人と自然が持続的に共生する社会構築をめざしている。
筆者ウェブサイト:aki-hamada.com