住宅特集 2021年7月号発売となりました !

コンピュテーションが生む創造的思考 第9回:空間制御のアップデート「粒子・波の制御と仮想現実」

photo: Gottingham

浜田晶則/AHA 浜田晶則建築設計事務所・teamLab Architectsパートナー

人は何を見て、雨を雨だと感じるのだろうか。雨それ自体が目の前を通り過ぎるその存在よりも、水たまりに落ちる水滴と波紋、身体に触れる水滴、屋根に当たる音などが、その存在をわれわれに強く認識させているのではないだろうか。雨そのものがそこにあるという事実よりも、それによって生じている周辺の現象が雨の存在を担保していると思うのである。

第2部では水や空気などの粒子や流体、張力をもつ膜などの挙動と形態が、コンピュータによって計算可能になったことについて触れた。そのような動的な力の流れをモデル化し再現できるようになると、それを制御できるかについて考えてみたくなる。有史以来、人間はさまざまな空間制御の方法を発達させてきた。それは自然との境界をつくり、布や覆いなどをかけることで身体を守るという防衛から始まり、光や風を適宜取り入れるための窓や建具などで建築に可動部位をつくり、空調・照明・センサーなど機械の動力を用いた設備によって環境や空間を制御し、生活の質を高めてきた。第三部では、何らかの外的な力を建築の内外に与えることによって可能となる「空間制御」について考えてみたい。

われわれは、さまざまな仮想空間と物理空間を往来しながら情報の時代に生きている。表層が生み出す仮想的な意味を読み取り、常に頭のなかで想像を巡らせている。たとえば、今見ているこのモニターは、光の粒を制御することによってテキストや画像を動的に映し出している。AHAのインスタレーション作品「Libra」は、光以外にも動的な素材としての水や空気を振動させることで、空間を制御しようと試みた。この作品を例にして話を進めよう。

Libraは「天秤宮」という意味のほか、古代ローマの重量単位としても使われた言葉だ。この作品は、力の関係や物同士の関係をはかるためのメディアである。さまざまな二項対立的に位置づけられてきた事象を宙吊りにし、明確な定義を保留することで、非日常と日常、仮想と現実、主体と客体、これらを両義的なものとして思考するための装置として設計した。

重力、抗力、摩擦力、振動、蒸発などの力の流れは直接的に目には見えない。この作品はフッ素樹脂ETFEフィルムとガラスの物性を用いて、それらが動的に均衡する状態を構造として成立させている。45度に傾く182kgの二対の大ガラスはそれだけでは倒れてしまうが、そこに0.25mm厚のフィルムをかけ、97kgの二対のガラスの塊によって張力をかけることで、力の均衡が維持されながら大ガラスとガラスの塊は浮遊する。

photo: Gottingham

二対の漏斗からフィルムに水が落ち、複数の水が結合して大きくなると、自重と摩擦力の均衡が崩れて水が滑り落ちる。超撥水性のフィルムが水の接触角を大きくし、ふくらみのある水玉がつくられる。フィルムの上に配置された光学ガラスは、滑り落ちる水の流れを遅くし、中央の大きな水たまりと一体になるまでの時間を制御する。水たまりの中央には球体が漂い、それが波紋を生む磁場となる。調和された水音が彫刻のように立体的に降りそそぎ、次第にその密度が高くなっていき、雨が降る。その雨はフィルムを震わせ音を鳴らし、水に波紋を生じさせ、静かに蒸発していき循環し続ける。

サイマティクスという、物体に振動を与えることで固有の模様を可視化させる現象の研究分野がある。
Björkの「Biophilia」という作品のライブツアーにもサイマティクスを用いた装置が用いられ、ベース音と同期した演出に用いられた。

「Libra」で制御した仮想の雨は、その原理を応用している。二枚の大ガラスに振動スピーカーを設置し、特定の低い周波数の音(振動)を与えることで膜の上の水たまりに雨粒が降ったような波紋を生成させている。重力が流れと均衡をつくり、粒子の粘性が速度をつくり、振動が共鳴して波をつくる。動く素材を制御するためには計算が必要となるが、コンピュテーションによって仮想と現実の境界を曖昧にすることを試みた。

サイマティクスの現象を観察していると、物質は「粒子であり波でもある」ということが強く認識される。かつてアインシュタインが光とは何かについて研究し、その本質を粒子であると仮定して光子を定義した。そして光子の振動数の高さ(波)が光のエネルギーに関係するという仮説を立て、光電効果の実験によって証明した。2015年、光がもつ粒子と波の二重性を同時に可視化させることにEPFL(スイス連邦工科大学ローザンヌ校)が成功し、それによって「粒子と波動の二重性」はより一層想像しやすくなったといえるだろう。

アートコレクティブのteamLabがシンガポールのマリーナベイサンズにパブリックアートとして制作した「Nature’s Rhythm」(2017年)は、直径15mの光の円形リンクと、光の点の集合でできた高さ20mにあるシリンダー(直径7m高さ14m)から構成されている。ここには当初スケートリンクがあったが、それをデジタルのリンクへと変換した作品である。

リンクでは、数万匹の魚群が、リンクの上に立つ人々のふるまいの影響を受け、また上空の鳥群の影響を受けて泳ぐ。リンクの上で人々はそれぞれ色を持つ、そして、近くの魚はその色に染まっていく。

数千から数万の魚や鳥の群れの動きは、美しく神秘的で、まるで一つの巨大な生命体のようにも見える。群れには、リーダーもいなければ意思疎通もなく、となりの仲間が動くと自らも動くというような単純な規則で動いているとされている。しかし、数百匹や数百羽の群れでほぼ同時に起こることの生理学的なメカニズムは謎に包まれている。そこには、人間がまだ理解していない普遍的原理の存在があるかのように感じる。何にせよ、群れによる彩色には、全体としての意思はない。人々の存在の影響を受けながら、一匹一匹や一羽一羽がプリミティブな規則で動くことで、平面は、意図のない複雑で美しい彩色となる。

作品はコンピュータプログラムによってリアルタイムで描かれ続けている。あらかじめ記録された映像を再生しているわけではない。全体として以前の状態が複製されることなく、変容し続ける。今この瞬間の絵は二度と見ることができない。 


(teamLab「Nature’s Rhythm」より抜粋)

レオナルド・ダ・ヴィンチが手稿に水の流れを線で素描したように、水そのものを描くのではなく、流れる粒子のように魚の動きを描くことで水の流れる様を想像させる。

これに加えて、メディアアーティストのRefik AnadolがWalt Disney Concert Hallに光を投影した作品「WDCH Dreams」のように、光を制御することによってさまざまな建築のエレメントは制御可能なものになっていくだろう。

シミュレーションによって扱うことができるようになった動的な素材は、表層に現れることで仮想的な意味を動的につくり出す。そこに生じる意味をリアルタイムで計算可能にし、その場に創造することは複雑なコンピュテーションによってのみ可能となるだろう。雨が降っていると認識するときのように、周辺の現象を制御することで、それが仮想であったとしてもその存在を想像することはできるのである。

浜田晶則/AHA 浜田晶則建築設計事務所・teamLab Architectsパートナー
1984年富山県生まれ。2012年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。2014年AHA 浜田晶則建築設計事務所設立。同年よりteamLab Architectsパートナー。日本女子大学非常勤講師、明治大学兼任講師。コンピュテーショナルデザインを用いた設計手法で建築とデジタルアートの設計を行い、人と自然が持続的に共生する社会構築をめざしている。
筆者ウェブサイト:aki-hamada.com