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海外の都市 第5回:カナダ・トロント ---Cultural Diversity

河野明日香/ランドスケープアーキテクト(PUBLIC WORK)

このコラムでは“人種のるつぼ”といわれるカナダの都市トロントにおいて、文化や人種の多様性がどのように都市形成にかかわってきたのか、自然地形をどのように生かしてまちづくりが行われているのか、そして現在どのような歩行者中心のパブリックスペースのデザインがなされているのかについて紹介する。

筆者は2015年にトロント大学大学院のランドスケープアーキテクチュア学科に入学し、その後PUBLIC WORKという都市計画・ランドスケープ設計事務所に勤めて4年になる。コロナ禍で都市や屋外公共空間デザインの大切さが再認識されている今、本コラムを通して高密度の都心においてどのようにパブリックスペースの質を上げることができるのかを考えるきっかけとなればと思う。

多様な文化が醸成した「ネイバーフッド」

世界一多文化・多民族な都市といわれるトロント。この都市を理解するには、まずそこに住む人びとについて知ってほしい。トロント市の面積は約630㎢、人口は約273万人、その約半分が国外で生まれた人たちである。大まかに200を超える異民族が住んでおり、そのなかには先住民であるファーストネイションズ、イヌイット、メイティなども含まれる。そして、一つの国や文化が圧倒的な割合を占めることがなく多様性に富んでいるのは、世界的にも珍しい。

この多様性が生んだ都市の特徴の一つに、「ネイバーフッド」といわれるエスニックタウンがある。グリークタウンやリトル・イタリー、リトル・ジャマイカ、リトル・インディア、中華街、コリアタウン、ポルトガル・ビレッジ、ポーリッシュタウン(東欧系)、ジューイッシュ・ネイバーフッズ(ユダヤ系)、ケンジントンマーケット(元々はユダヤ系移民の街だったが、近年は西インド系や先住民の店などが集まる)など多岐にわたる。すべてのネイバーフッドは隣接しているので、自転車やストリートカー(路面電車)を使って簡単に見て回ることができ、まるで小さな世界旅行をしているようだ。標識がその国の言語で書かれていたり、その文化に根付いた建築様式が取り入れられているので、ネイバーフッドに訪れた際はディテールにも注目してほしい。

多様な文化や宗教をもった人びと、そして異なる部族の先住民族がいるこの都市では、公共空間の設計をする際、「何をつくるのか」と同じかそれ以上に、「どのようにつくるのか」に真剣に取り組む必要がある。筆者が現在設計を担当しているトロント大学のキャンパス内にある先住民族のコミュニティセンター(Indigenous House)は、エルダーと呼ばれる長老の方がたを中心にグループを形成し、ミーティングやワークショップを通して場所を共につくり上げている。彼らの伝統や信仰、言語、芸術や歴史、植物への特別な理解の仕方など、近代社会の価値観とは違う考え方を学びながら場所をつくっていく過程はとても面白く、奥が深い。

ケンジントンマーケットでのパペットショー。(撮影/筆者)

筆者のチームが設計を担当している、2023年竣工予定の「ウォレスエマーソン公園」のコミュニティエンゲイジメント。子供たちのアイディアも設計に反映される。

河野明日香/ランドスケープアーキテクト
PUBLIC WORK(トロント)勤務。1990年横浜生まれ。慶應義塾大学卒業。奈良女子大学大学院修了。トロント大学大学院ランドスケープアーキテクチャ専攻終了後、2017年より現職。