結果発表

■ 最優秀賞


※ 色味は実物と異なっています
梅澤一充(芝浦工業大学大学院)
 私が考える21世紀住宅とはさまざまな集合形態を許容できるものであり,本計画はそれを可能とする「個室網」による生活像と居住空間の提案である.
計画は低層木造密集市街地の典型例である東京・京島で展開される.新しい居住空間を,老朽化住宅の建替え更新案として既存の都市に挿入していくことを考えた.
「個室網」とは個室間の住替えを容易にし,個室をネットワークして生活することを可能にするものであり,「時間差利用」という考え方に「SI(スケルトン・インフィル)」を取り入れることで成立する.
「時間差利用」とは,京島に存在する複雑な所有権を再編集した結果であり,住人の建物利用時間を瞬間・短期・中期・長期・半永久の5段階に想定する考え方である.要は,公共施設・ホテル・マンスリーアパート・賃貸ビル・賃貸住宅・分譲住宅などをひとつの場所に集め,近接した状態を想定するのである.これにより,利用者は隣人との生活時間のズレを縫いながら生活を展開していく.さらに「SI」を導入し,各個室を機能的制約から解放することで生活においての空間選択肢は飛躍的に広がると考えた.
「個室網」の導入により,私たちは集合形態を選択しながら生活することが可能となる.

審査委員コメント

梅澤さんの作品は与えられた条件を大きく逸脱している.でも,このようなある程度のスケールをもった地域性を前提にしないと,もはや住宅について考えることはできない,という強いメッセージがある.その強いメッセージを評価したいと思った.従来までの家族という居住単位を分解して再構成するという手法は,多くの応募者の採用する手法でもあった.でも,再構成するときに何を契機にそのいったん分解されたものが再構成されるのか,その根拠が希薄でリアリティがない.その中で,梅澤案は,ホテルのような使い方から,長期間の利用までタイムシェアリングの時間をきめ細かく設定することで,この地域全体の性格をかなり上手に説明している.その説明の手口が最優秀賞の決め手になった.

(山本理顕)

分離派といってよいが,他の分離派がひとつ敷地の中での「ひとり分離派」であったのに対し,都市や社会を意識して諸機能をバラけさせている点が評価された.社会意識をもつことの大事さは,自閉しやすい若い世代に向かっての山本審査委員長の年来の主張である.各機能は,相当に狭く小さく,これで役に立つかと危ぶまれるが,プレゼンテーションとしては効果的であった.

(藤森照信)

住宅をいったん個人の空間へと解体したうえで,それらの再構築に新たな住宅の姿を見ようとした案である.他の同様な提案が,とかくダイアグラムのレベルにとどまっていたのに対し,この提案は,木造住宅密集地という具体的な場所で,そこに潜む複雑な土地の所有形態や,あるいは都市における時間の使い方といったパラメータに着目したことが秀逸だった.解体された住宅がいかに社会の中で成立しうるのか,そのリアリティを提示してくれた点で,他の提案とは一線を画していた.

(千葉学)