結果発表

■ 優秀賞


※ 色味は実物と異なっています
松繁宏樹(明治大学大学院)
00. 分離派の典型──家族単位の概念と住宅を構成する空間の単位を分解し,再構築することの試案.
01. 敷地──都心近郊の新興住宅地.20世紀の合理的な都市計画によって,正確にわけられた住戸/区画/街区において,1街区,1区画の概念から考え直す必要があるのではないか.
02. 生活の単位(個人)──1LDKで構成された四角形による内部空間と,それらに囲まれた三角形の外部空間を1単位(個人の生活する単位)とし,敷地いっぱいに機能・形態,共に連鎖させる.
03. 境界/領域──ここでは,住人が「個人」として生活する.住人は,プライベートルームを中心に隣り合うリビングルーム,キッチンルームを使用する.毎日,同じ場所を使用してもよいし,日によって変えてもよい.
しかし,必ず,どこかの場所で別の住人と生活が重なり合う.そして,各部分で起こりうる生活の重なりは,自らの生活領域を超え,全体へと連鎖し,ひとつの住宅の中で新たな家族の単位をつくり出す.
04. 21世紀の新たな家族単位──数年後,生活の連鎖は,1区画の境界/領域を超え,1街区すべてが,ひとつの家族単位となる.

審査委員コメント

松繁さんの三角形と四角形だけで構成されたフロアプランは,どこにどのような用途の部屋が配置されるかという,従来の住宅のプランからはまったく解放されている.つまりどこまでが一軒の家かという拘束から解放されている.すべての部屋が中庭を介して配列されているために,あらゆる部屋がその性格を特定されない.すべての部屋が等価である,という配列になっているわけである.だから,ひとつの敷地を超えて,増殖する可能性を同時に秘めている.その自由なアイデアを評価したいと思った.

(山本理顕)

伊東(豊雄)チルドレンがこのところしきりに展開しているプランニングのひとつに属し,“図と地の反転”を特徴とする.ヨコミゾマコトの富弘美術館の住宅版といえばよいか.こういうトンデモナイ住宅平面が実現する条件は,“狭さ”と“新技術”のふたつだが,それにしてはこの案は広すぎるし,新技術も提唱されていない.新しい世界は,追い詰められたところで,何かひとつを突破口として開くのである.

(藤森照信)

やはり住宅を個人の空間に解体してとらえ直そうとする案だか,こうした視点を具体的な空間の質に置き換えて表現しようとしていた点で,共感できる提案だった.すべての空間単位が置換可能でありながら,そのひとつひとつの空間が,外部空間を介して独立性を保ち,また他の空間との関係性によって強く規定されているという構成は,今日の家族と個人の関係性を見事に空間化しているといえる.惜しむらくは,敷地設定が郊外住宅地の一区画として完結してしまいゲーム性を帯びてしまっている点で,この関係性がより広いコンテクストにどう位置づけられるかを示してくれれば,より強い提案になったのではないかと思う.

(千葉学)