結果発表

審査講評

 

■ 山本理顕 (工学院大学教授, 建築家)

総評
課題説明にあるように,できるだけ現実の状況が反映されているような提案を求めたいと思った.現実の状況をどう解釈するかは提案する側に委ねられている.いや,むしろだからこそ,その現実をどう解釈するかが,このコンペの参加者に対して求められる最重要課題でもあったわけである.そんなことは恐らく多くの応募者にとっては織り込み済みのことであったと思う.でも,実際にこの500を超える多数の応募作品を見て,改めてそれがきわめて難しいことなのだと思った.住宅を巡る環境はあまりにも多様なのである.
その多様性をどう引き受けたらいいのか途方に暮れている,この全応募作品から感じられるある種の共通する態度は,どこから手をつけたらいいのか分からないという,いわば閉塞状態の中での孤軍奮闘である.できるだけ具体的に考えてもらいたいと思ったけれども,具体的になればなるほど,現実に今ある住宅をただ追認するような提案になる.それを超えようとしたとたんに諧謔になってしまう.この閉塞感はかなり深刻な問題じゃないかと改めて思ったというのが正直な感想である.
でも,そうした住宅を巡る状況だからこそ,この住宅コンペは極めて重要なコンペである.この閉塞感を打ち破る画期的な作品がこのコンペから生まれることを期待したい.その萌芽はこの孤軍奮闘の応募作品のなかに既に見られるように思うのである.

■ 藤森照信 (東京大学教授)

解体に向かう住宅イメージ
近年の若い世代相手の住宅コンペの特徴は〈分離派の抬頭〉といってかまわないだろう.といっても,大正9年(1920)に堀口捨己や山田守が結成した,かの史上に名高い分離派のことではなくて,赤瀬川原平が20年以上も前に笑いとともに提唱した分離派のことで,ひとつ住宅の諸機能が,たとえば玄関は公園の脇,居間は3丁目,食堂は4丁目,階段は駅前に,といったふうにバラバラに置かれ,住人はそれらの間を行ったり来たりしながら暮らす.
住宅の諸機能を,これまでのように,ひとつ屋根の下にまとめたりせず,バラけさせてしまうのが分離派なのである.世界にも珍しく,日本に実例はない分離派住宅のイメージがどうしてこのところ繁茂するのか.家族とその器としての住宅が,解体に向かっていることの兆しなのか.地震や洪水のときの一時避難所や難民キャンプは分離派状態を呈するけれども,確かに人類の住まいのひとつの究極ではある.

■ 千葉学 (東京大学大学院助教授, 建築家)


住宅を「家族」のための場所ではなく,「個人」の空間に解体してしまう,これはもはや誰もが認識している前提なのかもしれない.そう思わせるほど,同様な提案が多かった.僕も同感である.ただ,解体しっ放しではいけないとも感じている.むしろそれらがもう一度いかにして繋がれるのか,どのような新しい関係性なりコミュニティを形成しうるのか,そこにこそ今後取り組むべき大きな課題が潜んでいるように思う.ではこうした課題はいかにして乗り越えられるのか.もちろん新しい空間モデルを探ることも必要だが,抽象的なダイアグラムだけでは不十分だとも感じている.むしろ都市空間において時間や空間をいかに使用していくか,こうしたマネージメント的視点を持ちこまない限り,乗り越えられないと感じている.なぜなら「家族」が「個人」に解体されてしまっている現状は,まさに都市空間がもたらしたことだからである.今回のコンペでは,こうした視点での取り組みがあった案を強く推した.

■ 西村達志 (大和ハウス工業常務取締役)


今回の住宅設計コンペは,大和ハウス工業の創業50周年となる本年を第1回として開催しました.第1回目であるにもかかわらず500を超える応募をいただいたことを感謝いたします.「21世紀住宅」というテーマを通して期待したものは,これからの住宅のあり方について,既成概念にとらわれず,同時に社会的なリアリティを持って考えて欲しいということでした.応募作品を見ると,着眼点,表現の方法ともにバライティに富んでおり,楽しく見ることができました.入賞作品はその中で「社会」「地域」「居住単位」「建築単位」といった要素について,とりわけ高い一貫性と独自性をもって構成できていたのだと感じます.少子高齢社会への対応,住宅供給過多といわれる一方での住まいの質の向上という課題,ストックへの対応,中古流通の促進,環境対策…・住宅をめぐる課題は多様です.このような課題について広く考える刺激的な場として今回のようなコンペをできれば今後も検討していきたいと思います.