最優秀賞


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西川拓 (東京大学大学院)

森の遊牧民

「住人の生活を豊かにする住宅のあり方が,その回りの住宅街やそこに住んでいる人たちも少しだけ豊かにできること.」それが21世紀ならではの住宅を通した人付き合いであるように思えた.たとえば,ある住宅地の一角に鬱蒼と茂った森があることで,回りの家々に変化と更新という豊かさを与えるだけでなく,森を介した近隣との人付き合いを促すような,懐の深い場所ができ上がる.
そして,この小さな宅地がまるで遊牧民の生活を満たすような長大な大地に変貌するように思われた.
なぜなら,「その日行ってみないと,そこがどうなっているか分からないような場所が家中にちりばめられている」ような状況を森がもたらしてくれるように思われるからである.
森の端から端までを練り歩くようにして生活する細長い家.木々の垂直方向の変化を楽しみながら昇り降りするように生活する高い家.木々の近くや遠くを選びながら森の中を生活する広い家.
いずれも家の中に特別な場所があって,それが森の変化によって移動し,住人もそれを追いかけるようにして生活する.

審査委員コメント

デザインする能力を高く評価したい.この提案で計画された住宅は,たったの3戸である.木に寄り添うようなかたちで住宅を計画するこの考え方を維持したまま,密度を上げることはそれほど難しくないと思うが,あえて3戸の住宅しか設計しなかったことを評価したい.たとえ販売戸数が3戸だけでも,それが商品として十分な説得力をもつとしたら,この環境に対してむしろ有効だと思う.

(山本理顕)

緑と住宅,というテーマは,住宅個人化と並んでこのところの住宅テーマに違いないが,こういう解決は珍しい.緑を回りに植える当たり前のやり方でも,屋上に植える屋上庭園方式でもなく,住宅平面の一部に細長い部分をつくって緑が住宅を囲みながら,一方,住宅も緑を取り囲む,という相互関係を生む.
別荘地ではなく東京の下町の住宅地でやったところがミソで,これなら明日にもできそうな気がする.バランスのよさが,評価された.

(藤森照信)

木に寄り添うようにして,木と共にある住宅の提案である.木の多様な側面,たとえば太い幹であったり,梢であったり,葉っぱであったり,そんなたくさんの姿に呼応して住宅の環境がつくられている.木と共にある家という考え自体は目新しいものではないが,これまでの関係が,どちらかというと建築に従属した,いわば飼い馴らされた木であったのに対し,この案は,むしろ建築が木に従属しているようなイメージを醸し出している.その建築の,弱く儚いイメージが,これからの住宅のひとつの鮮明なイメージを提示しているように思われた.

(千葉学)