審査講評

山本理顕(工学院大学教授, 建築家)

第2回目となる今回は,第1回目とテーマは同じ「21世紀住宅」である.ただし,設計条件をかなりはっきりさせたことに「さらなるリアリティ」という課題の狙いがあった.面積,建蔽率,容積率など,敷地条件を出題者側が与えたことは前回との大きな違いであり,それにより応募者は場所の特性をある程度は想定できたと思う.出題者が提示した条件や現代の社会状況にあてはめて設計することもリアリティに含まれると思うが,そこで踏み止まってもらいたくはなかった.条件をまるごと写しとることだけがリアリティだとは思わないし,それをリアリティだとは思ってほしくない.

新しいアイデアを持った住宅ができることで,これまでになかった生活のあり方や新たな社会的なシステムが実感できるということ,それがむしろ重要なのである.近代建築には新しい社会をつくっていこうとする強い意志があった.そのような意識をこうしたコンペの場面で感じたい.住宅で今何ができるのか,それを緻密に考えていけば,今回選ばれたどのアイデアも十分にリアルな建築になるはずである.

藤森照信(東京大学教授)

「さらなるリアリティ」を求めてというコンペであった.敷地を設定し,案を求めた.その設定があって,具体的な街の中にどこまでも広がる地区計画的な案はなくなり,住宅コンペらしいコンペとなった.よかったと思う.おそらく,どのような設定をしようと,優れた人は優れた案を考え出すということだろう.

シングルマザーとシングルファーザーが一緒に暮らすという〈合コンハウス〉(選外佳作/三浦案)がプレゼンテーション力不足から1次を通過できなかったのは残念だ.家族から個人の住まいへ,こうした案は今回も多かったが,いろいろな分野でしばしば話されていることであり,現代の家族問題を自分の目で捉えているとは言いがたい.その点,〈合コンハウス〉は目のつけどころだけは抜群だった.個人的体験が背後にあるのかもしれないと推測したが,一方,受賞者は背後に何もないのではないだろうか.そうした中で,社会性という点ではコンビニを住宅の核とする優秀賞の後藤案がよかったが,案をもっと詰めてほしかった.

背後に,問題とすべきことを何ももたない幸せな家族と住生活の中で生まれ育った者が,建築家となったらどんな住まいをつくるんだろう,ということを,今度のコンペを審査して初めて考えさせられた.これまでの延長にするのか,むしろかえって逆にアナーキーなアイデアに刺激と突破口を求めるのか.どっちがリアルなのだろう.

千葉学(東京大学大学院助教授, 建築家)

昨年のこのコンペでは,藤森さんが言うところの「分離派」の提案がその大半を占めた.その傾向に対して僕は,そのばらばらに解体された個人の空間を前提として受け入れつつも,それらが再度どのように繋がれていくべきなのかを考えなくてはいけないと,確か書いた.その投げかけを受けてか,今回の提案の多くは,個人の空間相互の,あるいは空間と環境との関係性をテーマにした提案が多かった.その点は大いに評価してよいのではないかと思う.改めて建築の本質的なところに回帰した感もあるが,さまざまな事象の関係性を再構築していくことは,特に住環境において今後ますます重要になる視点であるし,今回のコンペで求めていた,「さらなるリアリティ」とは,実はこの「関係性」にあったのではないかと,改めて考えさせられた.リアリティというとすぐに,現実に建つかどうかという意味で解釈されてしまいがちだが,むしろ「いつか見てみたい」と思わせる案こそが,本当の意味でのリアリティなのだということも,今回の特に入賞した作品群に教えられた.来年も,是非とも見てみたいと思わせる提案がたくさん集まることを期待している.

西村達志(大和ハウス工業専務取締役)

まず,前回の1.5倍を超える779点もの応募をいただいたことを感謝いたします.これはこのコンペがよい評価を得ているものと感じています.今回,「さらなるリアリティ」を求めて,応募者の方々がどのように21世紀住宅を解釈されるのかを楽しみにしておりました.私なりに考えてみた時,時間軸や社会性といったキーワードが思い浮かびました.住む人にとってわくわくし続けられる住宅とは何か,建築家や施主が満足するだけでなく,周囲からその価値を評価される住宅とは.住宅に関わるさまざまな人びとがそれぞれにその価値を評価することでリアリティが感じられるのではないでしょうか.

ダイワハウスは,「人・街・暮らしの価値共創グループ」を標榜しています.ただ一口に価値といっても捉え方はさまざまです.あらゆる事業を通じ,顧客価値あるいは社会的価値を追求していきたいと思っておりますし,このコンペでもそのアウトプットはもちろんのこと,プロセスを通じて建築を目指す若い人たちに研鑽の場を提供できればと考えます.今回は,2次審査を公開の場で行っていただきました.その後の懇親会も含めて審査委員と本音のディスカッション,あるいは指導の機会を持っていただくことは,本当によい経験となり,さらに上を目指す挑戦の場になると期待しています.