主催:長谷工コーポレーション  後援:株式会社 新建築社

 

審査委員長 隈研吾

今回は学生にとって取り組みやすいテーマだったようだ.特に「っぽさ」という言葉がよかったのではないか.僕も事務所では「もっと街っぽくやろう,これには街っぽさがない」などと言って,設計のひとつのキーワードにしている.しかし,一見分かりやすいと思って取り組み始めたものの,次第に自分で何をやっているのか分からなくなってしまった案も見られた.その中で今回上位入賞した案は,自分のしていることをある程度客観的に把握しながら進めていたと思う.
特に「小ささの拡大表示」は建築のキャラクターをつくっている断面の線の描き方が建築の手法とリンクしていて,とても魅力的だった.実際にどんな建築ができるのか,ドローイングからだけでは想像できない,謎めいたところもよかった.
「どこかでみた,どこにもない街」は木の建具という柔らかい素材によって建築の質感を柔らかくしていく方法が,集合住宅のひとつの未来を感じさせた.
「“穴”がつくる街という建築」では家具から建築をつくっていくデザイン手法に新しさを感じた.木のボックスのような柔らかい素材感のものが今後,集合住宅にも使われるようになってほしいと思う.
これから2020年まで,今学生のみなさんが日本を新しくつくり直す主要メンバーになるはず.建築界を牽引するいちばんクリティカルな役割を担うことになるため責任は大きいが,逆にいえば自分の建築を実現するチャンスのある時代にみなさんは生まれたことになる.ぜひそのチャンスを生かして,すばらしい建築を残していってほしい.

 

審査委員 乾久美子

多くの提案において,室内の居住スペースよりもむしろ共用空間をいかに街に近づけるかが考えられていた.
「小ささの拡大表示」は図式的な断面によって,街の外部空間が持つ不均質性を獲得しようと試みていた.それだけでは単に図式のゲームになってしまいがちだが,ゴミ問題などと絡めた提案で興味深かった.内容が100%理解できるプレゼンテーションではなかったが,深みのある提案だろうと信じさせる何かを持っていた.
「猫が空をながめるみたいに」は猫が細い路地を歩くような小さなスケールで,居住者が住戸間の空間を共有していた.住戸をずらす簡単な操作によって猫の気持ちになれるような外部空間・共有空間ができており,それが街の路地空間のように感じられ,よい提案だった.
「どこかでみた,どこにもない街」は,江戸時代につくられたような大きな屋敷と街の構造の類似性に気づき,さらに100戸の集合住宅をひとつの屋敷としてつくると,全体が街のようになるのではないかという仮説でつくった作品.屋敷の部屋を建具で仕切るように,建物同士や外部空間を建具で仕切り,今までにない集合住宅の姿を感じた.
人やモノがたくさん描き込まれた提案が多い中,「“穴”がつくる街という建築」はそうした描き込みがなく,白い壁と茶色い木の組み合わせだけがパースと模型写真で表現されていた.ボックスと茶色の木の組み合わせが空間構成として魅力的で,街が持つ複雑性を獲得していると思わせる不思議な魅力があった.

 

審査委員 藤本壮介

僕自身建物をつくる時には,建築が周囲の要素とどう溶け合っていくかが設計のいちばんおもしろいところだと思っている.集合住宅は都市的な側面を持っており,それが実際の都市とどう結ばれるのか興味があった.300以上の応募案を見てみると,「街っぽさ」のイメージから直接的に発想し,小さな単位が集まって,その隙間に魅力的な場所が生まれるという案が非常に多かった.中には魅力的な案もあったが,多くは街っぽさを直接表現しただけで,できればその先にあるオリジナリティや建築と環境を考える新しい視点が見たかった.しかし,入賞案はどれも一歩二歩踏み込んで新しい視点を獲得していたと思う.
「小ささの拡大表示」は,新しいことが起こりそう,新しい建築が生まれそうな,わくわくさせてくれる案だった.アイデアコンペの場合,新しいかたち,新しい建築を感じさせてほしいと思うので,先を見せてくれたこの案を評価した.
佳作の中では,大きな市場のような風景がそのまま集合住宅になっていた「今日と過去を生きるいえ」と,薄いファサードを持った「繋がるマチ,ファサードに住まう」が似た要素を持っており,どちらも街と密に触れ合いながら建築と街を同時につくり出す提案だった.形は異なるが,街と建築それぞれの魅力を抽出して形にしていた.
「窓の坪庭」は窓がそのまま坪庭になり,そこを通して街と建築が相互作用する案だった.三次元的に浮遊する坪庭によって街ができ,住環境ができるおもしろい提案だった.

 

審査委員 池上一夫


「街っぽさのある集合住宅」を自分なりに考えると,現状の集合住宅は構造躯体,さまざまな設備・仕様等,非常によくできている.特にセキュリティ・プライバシーの確保については高いレベルであるが,反面,あまりにも街に対して閉鎖的で,各々の住戸が街の中で孤立している点に問題を感じる.もっと街に対してオープンに構え,集合住宅に公共性を持たせることで,新しいライフスタイルの豊かさが開けるのではないか.そして集合住宅に住む人たちが街に溶け込むことで,わくわくするような魅力ある街になっていくと思う.また,さまざまな社会問題を解決する糸口がそこにあるのではないか.
「猫が空をながめるみたいに」は,人間より小さいが,身体能力が高く自由に行動できる猫の視点から集合住宅に立体的な路地空間が計画されていた.非常に細かな部分まで緻密に計画された案だったと思う.
「“穴”がつくる街という建築」は住戸間の隙間を穴と捉え,この穴がいろいろと変化をしていき,街に溶け込んだり,街っぽい集合住宅になるという斬新なアイデアだった.
佳作の中では「50戸の住戸と50戸の番屋の集合住宅」が印象に残った.集合住宅の中に漁村における作業場「番屋」を持ち込み,番屋を通して周辺の街と交流し,デザイン的にも番屋の中で営まれる日々の生活を表出させていた.
今回はどの作品もよく練られていて,完成度が高く,具体性や現実味のある提案が多かった.今後も意欲的にいろいろなコンペに挑戦し,社会に出てからもよい建築,そして元気な街をつくっていってほしいと思う.