主催:長谷工コーポレーション  後援:株式会社 新建築社

最新情報

2016年2月1日
結果発表・審査講評・作品展示会のお知らせページをアップしました。
2015年11月19日
応募登録受け付けを締め切りました。
2015年11月10日
フォーラムページにて審査委員へのご質問の受け付けを開始しました。
2015年7月3日
応募登録受け付けを開始しました。
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審査委員長 隈研吾

kuma

今回のテーマは,応募者のみなさんの年代とかけ離れた高齢者の生活について考えることが必要だったので,きちんとその生活をリアルに想像できるかどうか少し心配していた.しかし,世の中全体が少子高齢化社会になっていることもあり,学生のみなさんでもそのようなことを身近に考えるようになっていること,さらにそういう状況を想像できる力があるのだと安心した.各案とも密度が濃かった.
上位の案は,どれも空間に対して細部まで想像力が行き渡っていた.100歳という時間を抽象的に捉えるだけではなく,具体的な時間・空間として捉えていた.全体的に,若い割りに老成してしまっているような案も多かったのだが,「街並みを守るベルトは時を囲う」は思い切ったフレームをまず街にかけることで,何でもない普通の家がまったく違ったものとして存在し得るという,現代アートが行うようなフレーミング操作が加わっていることで,不思議で,懐かしいけれど新鮮な空間ができていた.その知的なプロセスが,僕は今の時代に必要なものだと感じた.他の案もリアリティがあったが,もう少し元気な提案があってもよかったのではないか.これからの時代,年をとっても非常に元気で活動的なお年寄りも現れるだろうし,そういう元気な高齢者の新しい生活の仕方や住まいの提案を考えることもできると思う.そういう意味では,応募者のみなさんは,みんな同じように落ち着いた提案が多かったことは残念に思う.

 

審査委員 乾久美子

inui

今年のテーマはいろいろな読み取りが可能であったと思う.「100歳」を高齢者のための集合住宅として捉えた方もいれば,100年ずっと使い続けられる建物を構想された方も多かったが,そのふたつの要素がうまく混ざり合ったものが上位に残ったのではないだろうか.
「街並みを守るベルトは時を囲う」は少し乱暴的な提案で,既存の街並みをぐるりとドーナツ状に囲むという,狂言のような荒唐無稽な想定がされているが,囲われることで,既存の街並みの存在がより一層輝きを増すという設定が面白いと思った.またプレゼンテーションが圧倒的に緻密だったのも最優秀賞になった理由だと思う.「番をする町かど」は,周辺環境を抽象的にとらえず商店街の存在などをしっかり想定し,ジグザグ状にして増やした街角を,既存の町に接続するかたちで構想していた.街角のたばこ屋におばあさんが座っているという文化はわずかだがまだ残っている.もう一度,そうした人の居場所,出番のあり方を考えることにリアリティを感じた.最優秀賞の「街並みを守るベルトは時を囲う」と,優秀賞の「番をする町かど」は狂言とリアリティというように対極的な位置にありつつも,実はその位置付けは反転してしまうかもしれないとも思う.

 

審査委員 藤本壮介

fujimoto

今回のテーマは,100年という時間とさまざまな世代のコミュニケーションを考えていく,面白いテーマだと思っていた.応募作品を見ると,100年という時間の捉え方と高齢者の方を中心としたコミュニケーションというものの捉え方が非常に多様で,つくりこみがしっかりしている作品が多く,楽しい審査だった.一方,高齢者という言葉が入っていたせいか,全体的に渋く懐かしさを感じさせる雰囲気にまとめた案が多かったことが少し残念だった.もう少しいろいろな形で,未来の高齢化社会を元気付けるような案がたくさんあるとよかったと思う.
「街並みを守るベルトは時を囲う」は,古いものが残りながら生活は新しく更新されていくところが斬新で,プレゼンテーションも模型のつくりこみがすばらしく,ユニークで面白い提案であった.「微地形のある暮らし」は,高齢者の生活を地形がより生き生きしたものにするという提案が,断面の鮮やかなドローイングと共に見事に表現されていた.「SECRET OF WATER LIFE 水の命の秘伝」は,他の入選作品と比べるとある意味では異色の提案であると思う.全体に懐かしさを感じさせる提案が多かった中で,この案はより生き生きとした未来を思考していく視点が提示されていて,今の日本に欠けているかもしれない私たちが考えなくてはいけない重要なことを示しているように感じた.全体を通して,いかにこれからの時代をつくっていくのか,どのように高齢化した社会になっていくのか,そのビジョンのさまざまな広がりを見ることができて,とても充実したコンペであった.

 

審査委員 池上一夫

ikegami


今回は,高齢者も含めた多世代で暮らす集合住宅を30戸計画するというテーマだった.学生のみなさんにとっては高齢者を含めるところが少し難しいかなと思ったが,どの作品も課題をよく読み解いて,素晴らしい提案をされていたと思う.
「街並みを守るベルトは時を囲う」は,約100年という時間軸を意識しながらその土地に建っている街並みをそのまま残しつつ,その外周を新たな集合住宅で囲んでいくという,非常に大胆な提案だった.私たち長谷工も,新たな集合住宅・街づくりを手掛ける際にはその土地の記憶の継承について考慮するが,この提案は既存の住宅をそのまま残しつつ,さらにそれを商業としてコンバージョンしながら新しい世代を取り入れて住民が使っていくという,非常によくできた提案だと思う.「わたろうか つながろうか」も具体性があって,実際の集合住宅で実現することができるかもしれない.「囲炉端会議」は古典的な手法かもしれないが,煙突とも何とも言えない急勾配の屋根のかたちで形成される街並みが気に入った.「音の回廊」は,徐々に耳が遠くなるという高齢者の聴覚の変化に着眼して,ここで生活する人たちの営みを音によって感じ取れるよう,音を考慮した形態にまとめているところが素晴らしいと思う.「積み重なった記憶はあふれだし,そして…」は思い出が詰まったものは年と共に溢れてくる,それを塔状に積み重ねることによって,暮らす人たちがいつまでも思い出の中で幸せに暮らしていけるという雰囲気のある点を評価した.どの作品も本当に優れていた.受賞者のみなさん,おめでとうございます.