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2016年3月1日
SMOKERS' STYLE COMPETITION 2016のWebページをオープンいたしました.プロポーザル部門,作品例部門への応募登録の受付を開始します.
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プロポーザル部門審査経過

古谷
まず,皆さんの案に対するご意見をお聞きしたいと思います.妹島さん,いかがでしたか.
妹島
私は,山田+渡辺案や,森屋案のように,ガラスでぐるっと囲まれた細い空間はあまり快適なカフェにならないような気がします.それから,ファイバーを縛る山本+滝澤案も,ガラスで囲まれたスペースでは,うまくいくのか不安に思います.吉田案の家型は,なぜあそこに家型のボリュームが配置されるのか,その意図が分かりづらいのと,なにか商業的に見えてしまうのではないかというのが気になります.スロープで上がっていく森+高塚案は,ピロティ下にカフェの広がりがつくれないですよね.
一方で,北村+木村案の窓を開けて自分で調節していく機能があるのは面白いなと思いました.張+財部案は,木が林立する林の中で全部動かなくてもちょっと動けば風を感じる小さな半屋内がつくれる.木の一部が,部分的に煙も吸ってくれるから居場所も選べて,このふたつには可能性を感じます.
西沢
僕も,カフェのお客さんが無理なく空間を調整できた方がよいと思います.北村+木村案のいろんな窓を開くものと,大きな扉を開いたり閉じたりする大塚+大石案と,木の柱の張+財部案が印象に残りました.北村+木村案は楽しいと思いますが,快適な状態にするにはお店のオペレーションが決め手になる気がします.大塚+大石案は建具1枚を動かすだけで分煙空間をつくり出せるので,オペレーションは容易ですね.ただ,ヒンジにダクトを組み込むのは技術的にも予算的にも無理があるから,排気方法は再検討が必要です.張+財部案は,高層ビルのピロティに木材の林立する空間をもってきたのが新鮮で,あとは柱をどこまで可動にするかを慎重に再検討してほしいです.
古谷
吉田案はもう少し隙間を開けて建てられるとよいですよね.少し配置感覚がタイトな気がします.
佐藤
煙突にアイデアがあるとよかったですよね.高さを利用するのであれば,もう少し長さがないと,煙が希釈されない気がします.ファンを付けて解決するのでは残念ですね.
六鹿
私はやはり周辺の風景を考えます.そういう意味では北村+木村案はよいですね.少し無理なメカニズムもあると思うのですが,分煙の機能として必要な壁がきれいに見えるような気がします.森屋案は確かに喫煙ルームになってしまうのですが,すべてをガラスとせずに分節をして,やり方次第では発展させられるのではないでしょうか.
古谷
佐藤さん,設備的に見るといかがですか?
佐藤
設備的には,空間の高さをどう使うのかと,あとはコアンダー効果(簡単にいえば,流体が物体の表面に張り付いて流れる効果)が気になります.空調設備が必要でしょうから,組み合わせてどう面白いかですよね.興味があるのは山田+渡辺案です.上部に絞り込むプロポーションは,高さを利用していてよいのですが,全体のプロポーションにあの形を採用する必要があったのかな.喫煙する場所のアイコンとして利用されているとよかったかなと思います.あとは北村+木村案.自分で選べる.あとは窓の形が非常にバラエティに富んでいます.いわゆる通風のことでいうと,下を開け,同時に上も開ける構想はしっかり考えられていますね.張+財部案は非常に合理的です.木の幅をもう少し大きくしたり,真ん中を切って,すべての柱で煙の上昇を引き受けられるようにする.その時,強制的に排気するのではなくて,ビル風を利用して抜けるなどできれば面白いです.見え方も木の本数が多いのが魅力的なのか,あるいは色の感じがよいのかな.
古谷
圧倒的に「木」がある感じはあのピロティにはよいと思います.山下さんはいかがですか.
山下
快適な喫煙環境であるか,合理的に気流がつくられているかということに着目すると,細長い空間とはいえ,断面で12m2もある空間の森屋案で相当程度の横風をつくるためには,非常に強く排気しなくてはいけなくなり,排気口付近では「ごおおーっ」と大きな音がしてしまうのではないかと思います.吉田案は切り妻型であるため,屋根の最頂部付近に煙がこもってしまうように思われます.森+高塚案の浄化植物を使った場合は,光合成は昼間しかできないですから,夜の間にこもった空気の入れ替えができないのではないでしょうか.山田+渡辺案は,あれだけ先端を急に絞ると,実際は煙が抜けずらく先端にこもるのではないかなと思います.
あとは何本もの樹がきれいに立ち並ぶ張+財部案や,大きな扉の開閉により分煙を行う大塚+大石案大塚+大石案については,あれだけ大きい扉をつくろうと思うと床面にレールが必要だと思いますし,扉がどれくらい開閉しやすいかもカフェの運営に関わるかなと思います.そう考えると,比較的手軽にできる窓の開閉や,樹木型の柱を動かす方が現実的といえるのではないでしょうか.
私としては,北村+木村案の窓を開け閉めするアイデアがよいと思います.なにより喫煙者がマナーを意識しながら,喫煙するためのスペースをつくることができる.マナーが生まれ得るための装置としてさまざまな大きさの窓がを用意され,喫煙者が能動的にマナーを意識しながら分煙できるというのがよいです.
古谷
大体みなさんのご意見が出尽くしたと思いますが,うかがっていると,この中でいちばん展開していけそうだと皆さんが考えていらっしゃるのは北村+木村案でしょうか.このイメージが少し見慣れた気はしますが,少しずつプロポーションの違う棚がいっぱい混ざってるとよかったのでは.あとは存在感として「木」があるという意味で評価を得ている張+財部案.僕は山田+渡辺案の蓄煙突の上が繋がってなくて,ポットみたいな先端がひゅっひゅっと立っていたら,風景として面白いなと思ったのですけれどね.
西沢
あの蓄煙突は本当に空気が抜けるでしょうか.
山下
抜けないと思うんですよ.弊社でもいろいろな実験をしていますが,照明の温度がつくる上昇気流程度では十分ではなくて,もう少し強力に上部から空気を抜く仕組みが必要だと思います.しかし先端にそのための装置を入れてしまうと,プロポーションは台なしになってしまうかもしれない…….
佐藤
仕掛けに頼りすぎている部分もありますね.もう少し古典的なやり方だったら納得できますが.
六鹿
張+財部案が,ものすごく荒削りでいっぱい難点はあるけれど,面白い展開ができそうだと思います.分煙についても木の柱を可変するか,もしくはしなくても可能性はあると思うし,空間へのアプローチも多様に生み出せます.
西沢
僕も木の柱は固定にして,人が木の近くに移動するように考えた方がいいと思います.
佐藤
アイデアと建築の見え方として張+財部案がよいと思います.ロケーションからいっても,北村+木村案はスケールが小さい気がして,たとえば丸の内仲通りのショップ的な感じがあります.
西沢
確かに街にどのようになじむか,と同時に風景としてインパクトがあるか,が大事ですね.
妹島
ピロティ下に樹がばーっと林立する見え方は印象的な風景になりそうです.
古谷
意見が集約されてきたようですね.では,今回は最優秀賞は張+財部案,優秀賞は北村+木村案ということで決めたいと思います.ありがとうございました.

(2011年4日12日,JTアートホールアフィニスにて,文責:本誌編集部)