審査講評

山本理顕

今年は全体的に非常にレベルが高く,1次審査のときも多くの議論があった.表現としても単線で描くようなドローイングがうまくなっている.物に囲まれ,部屋に引きこもって社会に出てこない現象が問題になっているが,いくつかの案で,逆に集められた物を通して社会へつながっていく欲求のようなものが感じられて,それは非常におもしろいと思った.
「住宅のリストラクチャリング」というテーマだったが,1軒の住宅についてだけではなく,その周辺のことまで含めて考えてもらったことがレベルの高さにつながっていると思う.外に向かって開いていく建築がどのように可能であるかをさらに考えてもらいたい.これからますます高齢化が進み,いろいろな問題が起こってくると思うが,住宅が果たす役割は非常に重要だと思う.住宅がどのように変わるかによって今後の都市のインフラも変わってくるのではないか.そのような意味で今回は重要なテーマだったのではないかと思う.

1次審査風景

藤森照信

1次審査のとき,「例年になくツブゾロイだナァ」と思った.よくいえば,ヘンなものがない,悪くいえば強烈な個性がない.提案の内容も,図面の描写も,一定方向にまとまっている.そうした中で比較的強い個性を感じたのは,「住宅引出し化計画」とでもいう杉浦・池谷案だった.実際につくれば問題だらけだし,ただの可動収納棚にしか見えなくて,意外におもしろくも何ともないかもしれないが,少なくとも図面で見ている分には「実現したものを見てみたい」と思わされた.全体としてツブのソロった,非常にいろいろな提案があっておもしろかった.誰かの影響とかマンガの影響なのかもしれないけど,みんな絵がうまい.昔では考えられないほどうまい.
それぞれの提案のテーマは高齢化や住宅の配置などいろいろあったのだが,建築のレベルで実質的に見ると「物をどうするのか」というコンペだった.物と人間,収納と建築の関係を問うた,おそらく世界で最初のコンペだと思う.歴史的にもこれまでなかった.このコンペは100年後くらいに歴史家が興味をもつだろうと思う.

千葉学

全体の印象をいうととてもレベルが高いものが多かった.プレゼンテーションも優れていて,表現と設計の両面でよかったと思う.現実的な住空間という設定で,物や高齢化といった具体的な切り口で考えると素晴らしい案がどんどん出てくるということがわかったことも大変うれしいことだった.
課題文やテーマ座談会で「物」についての話をしていたが,テーマとして挙げた「住宅のリストラクチャリング」は,単純に収納の問題をいっていたわけではない.その点では,収納だけの問題になっている案が多かったという気もするが,日本の住宅は,小さいけれども半分は収納のためにあることも事実だ.モダニズムはそのような観点を排除して,抽象的な空間についての建築論を展開していった.その意味では,大袈裟にいえば,モダニズムがこぼしてきた空間のとらえ方を再考する,よいきっかけになったのではないかと思う.日本の都市は戸建て住宅でできているという,世界でも非常に珍しい都市だから,住宅からそのくらいの発信力をもった作品が生まれるとよい.

西村達志

住宅を通してさまざまな社会問題を見つめ直し,建築的なアイデアを競う「場」を,将来性のある学生や若い技術者に提供することは,われわれのような会社にとって社会的責任の一環であると考えています.当コンペでは応募作品の書類審査で終わらせるのではなく,公開審査のプレゼンテーションによりアピールする「場」,審査委員による厳しい質疑応答の「場」,審査を終えてリラックスした雰囲気の懇親会で改めて審査委員の先生方とのフリートークを楽しむ「場」というものが,彼らにとって本当に貴重な財産になると信じています.
今回は戸建て住宅に焦点を当て,建築とさまざまなモノの関係を再構築するというテーマで考えていただきました.かなり現実的な問題ではありますが,若い人の発想にかかるとこんなに自由でユニークなものが出てくるのかと,頼もしく感じられました.実際に建てるとなるといろいろと課題はありそうですが,夢を感じさせるという点ではおもしろい作品が集まったのではないでしょうか.