新建築 2016年8月別冊 集合住宅の新しい文法 東日本大震災復興における災害公営住宅
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日本の都市の主要な構成要素である「マンション」とよばれる中高層の集合住宅。そのほとんどが、少ないエレベータで多くの住戸を賄い、効率的な面積配分が行える開放廊下で間口の狭い住戸を束ねた片(北)廊下型です。買い手、つくり手、売り手の三方一両得が生み出した片(北)廊下型は、住宅市場というゲームが行きついた優れた発明品とも言えるものです。しかし一方では、環境にあるさまざまな資源を繋ぎつつ、そこに生活を埋め込んでいく実生活における冗長性を無視したものでもあります。これまで語られることの少なかった片(北)廊下型。その抱える問題が阪神・淡路大震災(1995年1月17日)によって顕在化しました。仮設住宅から片(北)廊下型の災害公営住宅に被災者が転居した後、多くの孤独死が発生したのです。阪神・淡路のこの教訓は、東日本大震災に引き継がれ、建築費の高騰やさまざまな難しい条件の中で、志を持った建築家によっていくつかの優れた環境が生み出されています。これらの建築は、建築作品として空間の美しさを主張する訳ではないし、社会規範としての汎用型にもまだ成り得てない柔らかい存在です。本書では、東北大学建築空間学研究室(小野田泰明研究室)に執筆・編集協力頂き、そうした建築を収拾し解説を試みることで、従来型の供給手法を超えた、新たな住まいづくりの萌芽を見出します。
001主旨002目次
004 第一部 集合住宅の歴史と災害復興 0061章 集合住宅の歴史
008 近代以降の集合住宅 012 復興における災害公営住宅の役割014ストックとしての復興住宅──同潤会を軸に: 大月敏雄016阪神から東日本へ──住宅復興の挑戦: 平山洋介
0182章 東日本大震災復興における住宅再建
020 被害と住宅再建024復興・住宅再建事業 026 復興のタイムライン
028第二部 東日本大震災からの地域の再生と災害公営住宅 0301章 コミュニティを手がかりとした復興
032岩沼市の災害公営住宅整備034岩沼市玉浦西災害公営住宅036七ヶ浜町の災害公営住宅整備038七ヶ浜町松ヶ浜災害公営住宅040七ヶ浜町地区避難所042個別解としての防災集団移転と復興のランドスケープ: 宮城俊作044浜の災害公営住宅045釜石市: 浜の公営住宅群046釜石市箱崎白浜復興住宅048釜石市唐丹片岸復興住宅049釜石市尾崎白浜復興住宅050釜石市小白浜復興住宅052アーキエイドの取り組み053石巻市営鮎川南復興住宅054田野畑村災害公営住宅056相馬市災害市営住宅「井戸端長屋」058南三陸町 町営志津川東復興住宅
0602章 発注・生産と新しい地域
062石巻市の災害公営住宅整備064石巻中心市街地の再生──中央三丁目1番地区再開発ビル/石巻市営新渡波東復興住宅066石巻市営栄田・黄金浜第三・浜松町復興住宅068釜石市の災害公営住宅整備070かまいし未来のまちプロジェクト072釜石のまちの変容──これまでとこれから 074釜石東部地区の再生と災害公営住宅076建築プロジェクトと戦略的な事業区域設定が牽引する釜石東部地区の復興: 遠藤新078住宅買い取り方式に応える工業生産技術
0803章 新しい住宅の文法──リビングアクセス
082東日本大震災災害公営住宅の構成──「プラン」と「地域」084リビングアクセスの登場と展開086釜石市大町復興住宅1号090大町復興住宅1号の住まい方092釜石市天神復興住宅094釜石市只越復興住宅1号096住環境を手当てするコミュニティの形成098石巻市営新立野第一・第二復興住宅102石巻の再生に向けて 対談: 亀山紘石巻市長×阿部仁史106七ヶ浜町菖蒲田浜災害公営住宅110菖蒲田浜災害公営住宅の住まい方112七ヶ浜町代ヶ崎浜災害公営住宅114七ヶ浜町花渕浜災害公営住宅116リビングアクセスの可能性: 厳爽118縮退時代の住まいのあり方: 祐成保志120復興で、出来たもの、出来なかったこと122データシート