新建築 1991年1月臨時増刊 建築20世紀 PART1 監修: 鈴木博之・中川武・藤森照信・隈研吾
Content
20世紀という時代は,建築と都市の面で未曽有の変化を体験した時代でした.革新的な作品の数々は,文化・芸術全般に大きな影響を及ぼしています.この「建築20世紀」は,2分冊により,現代日本の目から捉えた今世紀建築の全体像の集大成を目ざします.カラー写真を主体とした構成で,全体で建築作品約700と,約150件の解説を年代を追って収録.「PART 1」では前半にあたる1950年まで,「PART 2」では後半の現在に至るまでを紹介しています.表紙デザイン 亀倉雄策
作品
キュー植物園ヤシ温室 デシムス・バートン+リチャード・ターナー
Palm House, Stove Royal Botanic Gardens, KewDecimus Birton + Richard TurnerLondon, Great Britain
1848 鉄とガラスの構造物の中で,今なお最も美しいものの一つ.ここでは様式的な志向が完全に吹っ切れている.大温室の中で熱帯の植物が存在するということ自体,地理的に世界が一つになったことを象徴している.このヤシの木に対する夢は,ニューヨークの「ワールド・ファイナンシャル・センター」*(1988)にまで連なってゆくものだ.
London, Great Britain
1848 MAP
バルーンフレームの住宅 Baloon FrameChicago, Illinois, USA 1830’s
2×4工法の元祖にあたるのが1930年ごろシカゴの製材業者によって開発されたといわれるバルーンフレームと呼ばれる工法である.その特徴は,全ての骨組みが2インチ材で構成されていること(隅柱や主梁は重ね合わせて構成される),ジョイントは仕口を用いず釘打ち,柱は通柱などである.背景としては,製材業の発達,釘の大量生産があり,部材の大量生産と運搬に適した工法として,蒸気船や鉄道の発達とあいまって,それまでの丸太やヘビーティンバーにとってかわって,アメリカ全土に普及した.
Chicago, Illinois, USA
1830’s
フィラデルフィア南刑務所 ジョン・ハヴィランド
Eastern State PenitentiaryJohn HavilandPhiladelphia, Pennsylvania, USA
1821-37 行刑施設としての刑務所というのも近代の新しいテーマの一つだった.これは近代的なパノプティコン・システムの典型であり,独居制を採用した最初の例.
Philadelphia, Pennsylvania, USA
1821-37
ニュー・ラナーク ロバート・オーウェン
New LanarkRobert OwenNew Lanark, Great Britain
1800-25 初期の労働者のためのコミュニティ.今見るとほとんど強制収容所のように見えるが,それが理想的なものであったということは,資本主義の始まりの時期のスタンダードがいかなるものであったかがよく分かる例.
New Lanark, Great Britain
1800-25
コールブルックデールの鋳鉄橋 アブラハム・ダービー
The Iron Bridge, CoalbrookdaleAbraham Darby ⅢCoalbrookdale, Shropshire, Great Britain
1779 全鋳鉄の最初の橋.スパン約30mの半円アーチ.両脇の橋桁の部分にわずかにゴシック風のモチーフが施されているのが面白い.完全な技術的産物でありながら,様式的な志向が残っている.
Abraham Darby ⅢCoalbrookdale, Shropshire, Great Britain
1779
ミラノのガレリア ジュゼッペ・メンゴーニ
Galleria Vittorio Emmanuele ⅡGiuseppe MengoniMilano, Italy
1865 ドゥオモとオペラ座をつなぐように計画されたガラス屋根を持つアーケード.このようなアーケードの例は,すでに1846年にブリュッセルの「ガルリー・サンユベール」があるが,それを規模において遥かに凌いでおり,記念性を持った都市の商業空間となっており,他都市へも波及してゆく.
Milano, Italy
1865
赤い家 フィリップ・ウェブ+ウィリアム・モリス
Red HousePhilip Speakman Webb + William MorrisBexley Heath, Great Britain
1859 近代郊外住宅の嚆矢.専用住宅というタイプを意識的に作り出したものであるが,それ以上に極めて質の高い住宅であることが魅力である.モリスとその仲間たちが家具と内装をデザインした.井戸のある庭を囲むL字型平面で,その入り隅部分に塔状の階段室がある.居室は北と西側に配されている.ここでつくられた家具・調度がいわばアーツ・アンド・クラフツの原点.
Bexley Heath, Great Britain
1859
ハウオウトビル ジョン・P.ゲイナー
Haughout BuildingJohn Plant GaynorNew York, New York, USA
1856 初めて客用のエレベーターを装備したオフィスビル.その後の高層建築がエレベーター抜きでは考えられなかったという点で,アメリカの超高層建築を準備した建築と言える.建物それ自体は鋳鉄のファサードを付けただけのビル.現在エレベーターは蒸気から電気に切り換えられているが,まだ使われ続けている.
New York, New York, USA
1856
クリスタル・パレス ジョゼフ・パクストン
Crystal PalaceJoseph PaxtonLondon, Great Britain
1851 ロンドンで開催された最初の万国博覧会のための,鉄とガラスで作られた大空間.温室のシステムを利用したプレファブの先駆.博覧会という思想自体,全世界のものを集めてきて一つの人工的な環境の中に収めてしまうと意味で温室とよく似た百科全書的発想.
London, Great Britain
1851
ロンドン万国博覧会労働者モデル住宅 ヘンリー・ロバーツ
Model Houses in Hyde ParkHenry RobertsLondon, Great Britain
1851 博覧会のプロジェクトの一つとして建設された労働者のための理想的な住宅.発想としては1925年のパリ博におけるエスプリ・ヌーヴォー館*に似て,4戸が1ユニットとなり,それが上下左右に連続することで集合住宅が形成されるというもの.1戸当りの面積は50 m2 ぐらいとかなり狭い.
London, Great Britain
1851