結果発表

■ 優秀賞


※ 色味は実物と異なっています
綾城圭(東京理科大学)
タワーパーキングによる21世紀住宅を提案する.
元来建築は行為を行うために自分がそこへ動かなければならない構築物である.
しかしこの建築は行きたい場所が構築物の方からやってくることになる.
タワーパーキングは耐用年数・車種の大型化・コインパーキングの乱立等により,小規模のタワーパーキングは用途をまっとうしきれていない現状である.このようなタワーパーキングはその価値がなくなりつつある.
しかしパーキングは交通量が多く人びとの出入りの高い場所に立地するものであり,住宅やSOHOという用途を考えると適した敷地である.リノベーションすべきである.
性格の異なるスラブが観覧車上にぐるぐるまわる.スラブが繋がる状態では上下間が遮断され,互い違いの状態では相互関係が強くなる.
回ることでさまざまな空間の組み合わせ・場所性を獲得し,動くこと=生活することがコミュニケーションを増発させる.

審査委員コメント

綾城さんのアイデアは,ひとつひとつの部屋が相互に接続されることでさまざまに変質する.その変質のメカニズムを既存の立体駐車場のメカニズムによって実現するというアイデアである.異質な部屋の出会い方によって,さまざまな空間がつくられる.プレゼンテーションも上手だし,そのアイデアには可能性があると思われるが,それをもう少し発展させてほしかった.夫婦ふたりではなくて,もっと多人数が住んだらどうなるのか,この建築と周辺地域とはどのような関係になるのか,このコンペはそこを問うているのである.

(山本理顕)

分離派の出現は予期していたが,このような案が出てこようとは.いらなくなった立体駐車場を再利用しようという計画だが,たしかに車1台分のスペースは部屋として使える.感心したのは,洋服タンスなどの付属的機能が内側壁面に造りつけられていることで,こうした小技のキレのよさが審査員一同の気持ちを引きつけたのだった.朝食を,朝一番の青天井の下で取ることができるのもうれしい.

(藤森照信)

タワーパーキングを住宅にしてしまおうという提案は,一見荒唐無稽な設定に思われる.実際そこを住居にすることの魅力は,まだまだリアリティを獲得しているようには思われなかった.ただ,現代の都市空間にとって,ネガティブなものとしてしか見られていなかったタワーパーキングが生活空間になるという設定は,単にネガティブな場所に積極的な意味が付与されるということ以上に,住宅にもはや建築としての類型などなくなってしまっているという事実と,そして都市空間のいかなる場所も居住空間として成り立ちうるという可能性を示している.それは,さまざまな活動の偶発的近接がもたらす新たな都市性を感じさせてくれている点で,魅力的な提案であった.

(千葉学)